“どれだけあげたら”  『LOVE×2な10のお題』より

 


したたる緑に、空は正青。
ツツジが鮮やかな赤紫や純白の花を咲かせ、
初夏の兆しがそこここに満ちてはいるけれど、
草いきれの香りもまだちょっと柔らかな感のある、五月の半ば。

 「よぉーっし。インターバルだ、10分休憩っ。」

相変わらず頭数が少ないその上、
そりゃあもう死角なんてないんだろうほどに目の行き届く、
高校“最凶”な悪魔様による監視の下での練習は、
息つく暇さえないほどに、密度も高く、ハードな代物で。
それでも効率というものを重視する人ではあったので、
意味のない根性論からの消耗、
ぶっ続けで身を酷使するという無理強いは…滅多にはやらない。
筋トレやら可変ダッシュやら、
ポジション別のトレーニングを一様に中断させての休憩とあって。
練習着を汗まみれにした面々、
それでも…疲労困憊の体へ鞭を打ち、水分を求めてベンチへと向かう。

 「水、水ちょうだい。」
 「はぁ〜っ、生き返る〜〜っ。」
 「皆ちゃんと汗拭いてね〜。」

からっからの喉には冷やしたお水が格別に美味しいし、
グラウンドの縁、どこか遠慮がちに居残っていた立ち木の下へと転がり込んで、
僅かばかりの木陰で こてんと寝そべれば、
木陰を通って吹いて来た風が何とも言えず心地いい。
汗が乾き始めた前髪越し、
悪戯な木洩れ陽を降らす梢を見上げて、

 “ああ、もうそんな季節なんだ。”

ぽつり、呟いた瀬那だったりする。
2年目の春はやっぱりあっと言う間に駆けてった。
毎週末には試合があって、
それへと届かす練習に明け暮れる毎日は、
気づかぬうちにその様相を塗り替えていて。
体を温めるのに時間が掛かるでなく、
ただ陽なかにいるだけでも汗ばむくらいの、
そんな季節になっていて。
でも なんか、全然気がつかなかったなぁ。
練習中は暑さなんて感じはしなかった。
今頃になって、髪の中とか背中とか、
汗がどっと出て来てるのへ気づいて、
暑いよぉ〜〜って感じてる。
トレーニングしてた間は、
冴えた緊迫感が、集中が、他の感覚に封をしていたのかな。

 “…ああ、でも。”

そのくらいしなくちゃ、あの人には勝てないと漠然と感じて、
そんな思った端から、
胸の奥がぎゅぎゅって引き締まる。
アメフトボウラーに限っても、とんでもない人は一杯いるけど、
そんな中でも特に、
セナが意識を据えている人は一人だけ。
“努力する天才”とは良く言ったもので、
生真面目で前向きで、決して驕らず、努力を怠らず。
昨日よりも真っ直ぐな、今日よりも強い自分を明日へ連れてくことだけに、
日々を費やしてた最強最速のラインバッカー。
捨て身でかかってやっと、
ギリギリいっぱい、対等なところへ立っているよなボクとしては、
もっとずっと努力を積まなきゃいけないのは必至なワケで。

 「…。」

だって約束したのだもの。
今度は自分が挑戦者だからって、
次こそ勝つってお顔をしていた進さんと、

  ―― 今よりずっと強くなっているから、と

だから、もっと。
頑張らなくっちゃね。


  「…。    ………え?」


あれ?
あ、これ。/////////

 「? どした? セナ。」
 「あ、いやいやいや。ななな、なんでもないって、うん。/////////

誤魔化すように、ぱふり、お顔を伏せたタオルから、
やっぱり覚えのある匂いがしたから、あのね?

 “もしかしてこれって…。/////////

そのまま“うわぁ〜〜〜っ”と赤くなり、
せっかく引いた汗がぶり返すセナだったりし。

 “だって、あのあの。/////////

この匂いは紛れもなく、進さんの匂いだもの。
整髪料とか使ってないって言ってたけれど、
じゃあシャンプーの匂いなのかな?
仄かにミントの匂いとそれから、
ちょっぴり大人っぽい、男らしい匂いで…。
でも、なんで?
そりゃあ、進さんのことを思ってたよ?
頑張って強くなろうって。
じゃないと会わせる顔がないって。

 “…そりゃあまあ、今朝もお顔を見はしたけれど。”

今朝方も、朝のジョギングコースで合流出来て、
そのまま河原まで降りてって休憩したときに、

 “あ、もしかして取り違えちゃったんだ、進さんのと。”

Q街のスポーツ店で一緒に買ったのだったから、
色も柄も同んなじのだし、

 “…そういえば。”

すごい汗ですねって、ボクが拭いてあげたらば、
そういう小早川もって、進さんからも拭ってくれて。
そのまんま、相手のを首へかけたカッコになっちゃったんだな。

 「〜〜〜〜〜。/////////

ああ、どしよどしよ。集中が途切れる。
練習の時の集中も、進さんを目標と思っての集中ではあるけれど。
進さんの匂いがこうまで間近になっちゃ、
真っ向からってモードじゃあなくなる。
一緒に居たいようっていう想いの方が勝
(まさ)ってしまうもの。

 “…。//////

練習でも日頃でも、進さんのことばっか思ってるなんて。
ボクってよっぽどの“進さんフリーク”なんだろな。
あ〜あと吐息をついたセナくんだったけど、
やるせない溜息…にしては、口許や頬が甘くほころんでいたりしたもんだから、

 “何考えてやがんのか、丸判りじゃねぇか、あれ。”

まったくもって困った奴だねと、
こちらもこちらで機関銃を肩に目許を眇めた悪魔様ではあったれど。
そんなセナくんがこんなメッセージを紡ごうとは、
想いもよらなかったらしいです。



  ―― ボクをどれだけあげれば、進さんはボクのものになってくれますか?







  〜Fine〜 08.5.14.


  *何をどう書きゃいいのよと、一番詰まってたお題ですが、
   やっぱり不発だったかもですね。
   こんな可愛らしいメセジを、
   お昼休みにでもメールでお届けされた進さんは、

   『こ、これはっ!////////

   傍目からは判りにくかろが、赤面して硬直してしまい、
   お陰様で、仁王様もとえ、キャプテンが、
   すっかりと茹で上がってしまって使いものにならなくなったんで、
   放課後練習もそこそこに、
   桜庭くんが付き添って、泥門までのランニングに遠出して来たりして。

   『責任取って、ジョギングの伴走してやってくれませんか?』

   都内からは出るなよなと、
   蛭魔さんも酷な条件つけて送り出して下さったりしてな。
(笑)
   東京都って広いよね。(小笠原も確か東京都…。)

   (ちょっとネタばれ。)
   クリスマスボウルに向けての、ポジション別の特訓では、
   何と進さんがセナくんに
   マンツーマンでコーチについてくれてたんですってねvv
   昨日の敵は今日の友、つっても限度があろうに、
   なんてまあサービスのいい…vv

   とはいえ、
   ピッチ離れても敵対し続ける必要はないんだし、
   さらばと喧嘩別れしたワケじゃなし。
   だったら、毎朝逢ってたっていいじゃないのと、
   ウチの彼らは毎日のように実は逢ってたりするんです。
   次も負けませんからね…も何もあったもんかい、ですな。
(苦笑)


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